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インスタグラム mare.wine が綴るワインと時々経済のはなし

ワインの品質 劣化、進化、老化、熟成 (2)

このテーマの(1)では「劣化」について述べましたが、これに関しては「熟成」をまず考えてみてから再度戻っていかなければならないものなので、まずは「熟成」について考えてみましょう。

 

これについても食品を例にあげたいと思います。話がやや難しくなるチーズや味噌などの発酵食品はおいておいて、シンプルに肉や魚で話をします。例えば屠殺したての肉や釣りたての魚。食感ではなく「味」「旨味」という意味では単調です。もちろん「鮮度」という意味では最高の状態ですが、それイコール美味しいとならないところが難しいところ。一般的な野菜とは違います。経験の長い肉屋さんや熟練のお寿司屋さんなどはこのことを本当に熟知しています。

 

ワインの世界もたぶん似ています。鮮度を「果実味」と置き直すとワインが生成された瞬間から果実味は徐々に長い時間をかけて落ちて行きます。それと引き換えに肉や魚の「旨味」に相当する「果実味/酸味/渋味」が奏でる「調和性」「複雑性」「深遠性」が顔を出して来て、自然派であれば早い段階でワイン的「旨味」が、クラッシックな作りであればやや長めの熟成を経て澱から還元される「旨味」も手伝い「美味しさ」を増して行きます。ここで美味しさにカギ括弧をつけたのは、もちろんそこには嗜好が入るのでそうしました。魚でも熟成したお刺身より、釣りたてのコリコリしたものの方が好きだという人もいますので。

 

ところで最近では「熟成肉」や「熟成鮨」という分野まで出てきて、熟成環境にこだわり、タイミングもギリギリまで見極めて提供する店が増えている中、ある意味「熟成」の本家であるワインはより早飲みになり、「熟成」が疎かになっている気がします。熟成期間が長いことがその原因ですが、造り手によって、畑によって、ヴィンテージによって熟成過程が異なり複雑だということも要因になっています。また、造り手がスタイルを大きく変えることもありますし、ヴィンテージによって酸化防止剤を入れるか入れないか、その量によっても熟成の流れは変わってきます。それを全て網羅しながらワインごとに100%適した熟成環境を用意するのは事実上不可能です。でもある程度のコントロールはできます。そのためにはおおまかにでも個々のワインの「属性」を研究する必要があります。

 

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(写真のパカレは寺田倉庫。パカレは熱というより温度の変化に弱い気がするので、サンプル以外のパカレは極力温度変化の少ない品川の寺田倉庫に置いてあります。温度変化のなさという意味では倉庫のセラーが最強です。反面、出し入れの多い飲食店の冷蔵庫型セラーが最弱です。)

 

現在ワインセラーで眠っている相当な数のワインを少しづつ開けながら精査しているところです。リリースしたてのワインの記憶がどこまで正しいかは置いておいて、その記憶と照らし合わせながらワインの「動き」を観察しています。(1)でも述べたようにやや温度が高いだけでも、そして温度が頻繁に変化すると変質しやすいワインに、セシル・トランブレイ、フーリエフレデリック・コサール、フィリップ・パカレ、多くのオーヴェルニュの自然派ワイン、イタリアのパーネヴィーノ、案外リナルディーのバローロやパラディソのブルネロなどがあります。反面、DRCはなぜかそこそこの環境でも健全に熟成していくし、自然派でも雑な扱いを受けながらでも「不良にならない」子達もいます。この辺はセラーのワインを徐々に開けながらアップデートしていけたらと思っています。

 

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ちなみに、熱も含めて意外と強いのがシャンパーニュ! 結構可哀想な環境にあったセロスのシャンパーニュが美味しかった経験が。 シャンパーニュがそんなに強いのに意外と有名ホテルとかで飲むシャンパーニュが美味しくないことが多々。どうなってんだろ?

 

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